1.それは突然



 「おい、すごい音がする。何の音だ。」 「何の音もしないよ。」
頭のなかで、短波放送のピー・ガーというあの音が一気に鳴り出したのである。かと思うと体の力が抜けてきだし、車から出ようとしたのがシートに落ちてしまった。
 最初は心臓発作かと思い、バッグから何とかニトロを取り出し口にするが、いつもと様子の違いに気がつき、「脳をやられたかもしれない。」と、妻に言うと、妻も異常に慌てだし、「救急車を呼ぶからしっかりして。暑いから車のエンジンをかけれたらかけて。」
何とかキーを回すことができる。妻はサービスステーションに走る。

 1996年8月16日、娘の嫁ぎ先の宮津へ妻と二人車で出かけた。
 宮津の花火大会を娘の家から見たり、翌日には旦那の両親に会ったり、天の橋立を見学したり、娘夫婦と食事をしたりして、18朝9時過ぎに宿屋を出て帰路に向かった。
 ちょうど12時の心臓の薬を飲まなくてはいけないし、ちょうど休憩するのにもいいと思って、中国自動車道加西サービスエリアに入った途端の出来事である。
 妻が救急車の手配に行っている間に、吐き気をもよおす。

 気が遠くなりつつも、妻の励ます声や、エリヤの職員の声が聞こえる。
「救急車すぐ来るからね。大丈夫だよ。がんばって。」

 遠くから救急車のサイレンの音が聞こえてくる。もう少しだ。
 音が止まったと思うと、すぐに男の声で、「もう大丈夫ですよ。聞こえますか。」などと問いかけてこられる。しゃべろうとしたが、すぐには喋れない。
 すぐに担架に移され車に乗せられるとすぐ酸素マスクを。頭の中では『俺の車どうなるのだろう。』なんて思ったり。